石垣島・西表島・竹富島の思い出(1)

卒論指導と小山田咲子さんのこと(1) - にゃまぐち研究室

卒論指導と小山田咲子さんのこと(2:完) - にゃまぐち研究室

直近2回にわたって小山田咲子さんの著書や卒業論文について話題にした。とくに彼女の卒業論文について書こうとなると、必然的に八重山諸島の新城(あらぐすく)島の話題になる。あれこれ書いているうちに、昨年の9月に八重山諸島を訪問した時のことを思い出した(新城島には行ってませんが…)。

せっかくなので、印象に残ったモノ・コト、八重山で考えたコトなどをメモしておきたい。

1日目は、石垣島の伊原間(いばるま)というところの民宿に泊まった(下の地図中の赤丸のあたり)。

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伊原間地区は、東側の海と西側の海に挟まれた地峡のようなところにある。それが飛行機の中からもよくわかった。

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ちなみに、あとで民宿のおっちゃんに聞いたのだが、伊原間のあたりのことを、古い地名で「フナクヤ(舟越)」とも呼ぶらしい。地峡なので、往時は、東の海から西の海へ、あるいはその逆で、西の海から東の海へ、船を担いで移動することがよくあったという。

日本全国、いたるところに「船越」という地名があるけれども、「フナクヤ」もまったく同じ趣旨で定着した地名であると思われる。愛媛にも、たとえば興居島や由良半島には船越という地名がある。どちらも地峡のようになっているところである。

もっとも、これまで僕は、船を担いで反対側の海に移動する理由は、ただ単に距離を節約したいだけだと思っていた。もちろんその解釈で間違ってはいないのだが、どうやらもう少し深い理由もあるらしい。というのも、船を担いで反対側の海に移動するのは、安定的に漁に出たいという思惑と大いに関わっているのである。

伊原間が豊漁地と言われたのは、天候に関わりなくほぼ毎日漁ができたからだ。それは、地形が半島の付け根にあって、東の浜が荒れると、西の浜に舟を移動してそこで漁をすることができたから。

11歳で移住、4世代50人に/石垣島の平良正一さん(87歳) | 宮古毎日新聞社ホームページ -宮古島の最新ニュースが満載!-

 

話は前後するが、飛行機は白保の海の上を旋回しながら着陸態勢に入っていった。現在の石垣空港を建設するにあたって、この白保の海を潰してしまう計画もあったらしい。この海が残ってよかったなと思う一方で、結局のところ現在の石垣空港を建設するために潰された農地や畑もある。そういうことを考えると複雑な気持ちになる。

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また、上の写真からわかるのは、サンゴ礁が天然の防波堤になっていることである。これもやはり泊まった民宿のおっちゃんの話だが、仮に外海がそこそこ荒れていたとしても、サンゴ礁の内側に入れば、大抵の場合、海はおだやかであるという。

 

民宿では、他の宿泊客と一緒に夕食をとった。結婚歴が1年先輩の夫婦に、近々夫婦になるカップルと一緒に肉をつついた。奥の方にいるのは宿泊客でもないけど遊びに来ているS浦工大生。毎年、遊びにくるらしい。自由だな~。このワヤ感が楽しい。

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民宿のおっちゃんおすすめの焼酎を飲ましてもらう。黒糖的な甘みとコクがおいしい。ただし、入っているのはチャーガとかいう謎のシベリア食材とはちみつ。

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どこでつくっているのか? と思ってラベルを見てみると、石垣島産ではなく九州産だった…

cf. チャーガ酒 「黒宝霧島」 | 霧島酒造株式会社

 「石垣島産ならお土産にしたのにな~」と一瞬がっかりするも、いつの間にか「島の人たちの普段飲みのお酒は地元産であってほしい」という価値観を地元の人に押し付けようとしている自分に気付いたりもする。こういう目線って、意外と「中央目線」ないし「東京目線」なので気を付けなくちゃいけないなとも思う。地元の海人に愛飲されている「黒宝霧島」は仮に島産でなかったとしても十分にauthenticだと思った。

3年くらい前だったと思うが、宇和島の九島の方々の横に着かせてもらって、池袋のサンシャインビルで年に1回開催される「アイランダー*1に参加した時のことを思い出した。手ぶらで参加するのもどうか…ということで、九島のお母さま方は柑橘のピールとみがらしを持って行って販売した。僕も接客を手伝ったが、東京のお客さんたちからは、原材料まで含めて全て島産かどうかを確認するような質問を多く頂戴した。それに対して、島のお母さんは屈託なく「カラシは宇和島のスーパーまで買いに行くんよ」と答える(島のお母さま方のこういう素直さが好きだ!)。これはちょっとしたディスコミュニケーションだな、と思った記憶がある。

その夜は、民宿のおっちゃんの息子さんや、周辺の若い移住者なども酒盛りに加わり、遅くまでダベった。

その翌朝の朝食がこれまた重すぎず軽すぎずちょうどよかった。右下の豆腐汁的なものがとくにおいしかった。

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2日目は、まず、竹富町役場を見に行った。竹富町は、西表島小浜島竹富島をはじめとしたいくつもの島から構成されているが、町役場それ自体は石垣島にある。つまり、竹富町の役場は町内ではなく石垣市に立地しているのである。

竹富町役場 - Wikipedia

 これがまたなかなか古い。

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Wikipediaの情報が正しいとすれば、「現在の庁舎は、1969年(昭和44年)に建てられた平屋のボウリング場を2階建てに改築して、1977年(昭和52年)9月1日に移転したもの」*2らしい。僕より12歳も年上である。49歳くらいかな?

ちなみに竹富町役場は庁舎の移転問題を抱えている。竹富町役場は下の地図の赤点の場所にある。西表島波照間島小浜島、黒島、竹富島などに暮らす住民は、町役場に用事がある場合には船で石垣島まで渡航する必要がある。もちろん、西表島波照間島には町役場の出張所があるし、小浜島、黒島、竹富島の住民も、戸籍謄本や住民票の写しくらいであれば、わざわざ石垣島まで赴かなくても手配することができるようである。とはいえ、本庁が石垣島にあるのはやはり不便。

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また、問題の本質はそこではなく、本庁に努める職員の多くが石垣島民(石垣市民)であることだと、西表島のある島民は僕に教えてくれた。言い方は悪いが、竹富町は、町民でもない職員に、地域づくりや公共事業のあり方を決められている。「石垣島に住んでいる石垣市民の職員は、何かにつけ動きが遅い。そもそも西表島がどうなろうと知ったことじゃないという職員が多い」と不満を口にしていた。

そういうわけで、竹富町の中でも最大の人口を誇る西表島の島民は、長年、町役場の移転を要求してきた。2015年には庁舎移転の是非を問う住民投票が実施され*3、現在は、西表島の大原地区(上の地図の青丸の地点)に庁舎を移転する話が進んでいる途中ではある。

もっとも、現在の本庁舎は、古くてレトロで、なかなか貴重な気もする。竹富町役場がどこかに移転しようとも、この建物は何らかの用途に再活用できないか、潰してしまうとしたら勿体なくないか、と思ってしまった。とはいえ、これは無責任な旅行者だからこそ言えることかもしれない。

 この日は夕方の便で西表島に渡ることにし、それまでの間、石垣島内をレンタカーで散策することにした。

川平にソーキそばのおいしいお店があるとのことなので、ブランチ気味に食べに行くことにした。食後に川平湾の畔を散策する。川平湾は曇天でも綺麗だった。

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川平湾の近くの食料品店でおばあと話す。「ドラゴンフルーツを探している」と言ったら、「冷凍ならあるけど、食べて行くかい?」と嬉しいご提案。シークアーサーの汁を塗って食べるのがおすすめらしい。

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石垣島は内陸部にも「絵になる」場所がけっこうある。サトウキビ畑はその内の1つ。ただし、いい撮影ポイントを見つけるためには、レンタカーと「時間の余裕」が必要だと思う。

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一般論として、島に暮らす人びとは慢性的な水不足に苦しんできた。八重山においても、森林の抱負な西表島を除くと、どの島でも水は不足しがちであったという。石垣島最大のダムである底原(そこばる)ダムの横を通りかかったので、休憩も兼ねて見学。後述するように、サトウキビ畑にスプリンクラーで水を撒くことができるようになったのも、こうした意味での灌漑設備が整ったからこそである。

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西表島行きの船内。本当は、島の北側にある上原港(下の地図の黒丸)行きの船に乗る予定だったのだけれども、この日は海が荒れていて、大原港(下の地図の青丸)行きしか出航しなかった。

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思えば、この時が前回のエントリーで話題にした新城島上地島:上の地図の赤丸)に最も接近したタイミングでもあった。左側に乗船しておけばよかった…

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先述したように、海が時化ている時でも、サンゴ礁より内側に入ると海は比較的穏やかになる。ただし、そのサンゴ礁を乗り越えるところが、船長の腕の見せどころらしい。おそらく、船長の腕をもってしてもサンゴ礁を安全に越えられるかわからない程時化た時に、欠航になるのだと思われる。

大原港から上原港までは代替運行のバスが走ることになったので、僕たちもそれに載せてもらった。民宿に電話をすると、おばちゃんが上原港まで車で迎えにきてくれることになった。 

1泊2食付きで2泊ということで予約をとっておいたつもりではあったが、西表島でお世話になった民宿のおばちゃんは、僕たちの夕食をつくってくれていなかった。単なる手違いということも考えられるし、石垣島から上原港に向かう船が欠航になりそうだったので、「来るか来ないかわからない」ということで、そもそも食材を準備していなかった可能性も考えられる。ウチのオカンが民宿をやるとこういうことになりそう…。リゾートホテルにそれをやられると腹が立つけれども、オカンだと思うと許せてしまう不思議。

とりあえず、西表1日目の夕食は、宿から徒歩で行けるところにある居酒屋でいただくことになった。その道中が生き物の宝庫でおもしろかった。

 

カニ

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八重山のホタルは飛ばない。全然かわいくない!(そんなところが逆にかわいい)

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あと、写真を掲載することは自粛するがゴキブリも目撃した。

うっかり挟まれると指を飛ばされるというヤシガニ。宿に帰ってからおばちゃんに見せたら、「食べるとおいしいのよ~」とのこと。

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沖縄から帰ってきた人によく、「沖縄の魚はしまりがない」と聞いたことがあった。今回の旅行で食べた限りではあるけれども、ことお刺身で食す場合であれば、上記の指摘は一理あるような気がした。けれども、沖縄の魚には、気のせいかもしれないけれども、程よい甘みやコクがある。お寿司のネタとしては優秀な魚だと思った。

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感激したのは豆腐の上に載っているスクガラスの多さ。内地の沖縄料理屋さんだったら、このサイズの豆腐の上に載せるスクガラスはせいぜい3匹くらいだろう。

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1番感激したのはアダンの天ぷらである。石垣島にせよ西表島にしても、アダンは至るところに群生している。ほとんど雑草に近いレベルの植物である。それがあら不思議。白身魚の代用品としてベジ食に使うこともできるくらいに食べごたえがあった。

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ちなみにこれがアダンである。ススキ以上、アロエ未満。

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今回泊まった民宿は、ネット上の口コミをみるとかなり悪口も書かれていて、妻なんかは事前にそれを見てしまって心配していた。けれども、泊まってみると、まあたしかに設備は古かったけれども許容範囲内だし、おばちゃんはやさしいし、窓からの眺めはいいしで、お値段(の安さ)のことも考えると結論的には大満足。

民宿からビーチまで30秒というのがいい。ビーチにもほとんど人がおらず、いるにしてもこの民宿の宿泊客くらい。のんびりできるし、カメラを砂浜に置きっぱなしにしても大丈夫。子どもができたら、リゾートホテルのプライベートビーチよりも、こういうところの方が気楽でいいなと思った。

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民宿のご飯もおいしかった。全てが全て地元産の食材ではないだろうけど、「普段こういうものを食べているんだろうな」という気がした。これもまたauthenticだと思う。

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西表島2日目のアクティビティは、まずはカヌー。浦内川の支流のウタラ川を遡った。マングローブの森の中をゆったりと遡り、気持ちよかった。

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遡行途中、かつてウタラ炭坑が健在であった時期につくられた橋の下をくぐり抜けた。ずいぶん古い橋だけれども、いったい何年くらい前のものなのだろう?

宇多良炭坑 - Wikipedia

ウタラ川の遡行コースは、初心者にも程よい距離感。これより遡行時間が長かったら、翌日は腕が筋肉痛になってしまったかもしれない。 

1時間程で浦内川まで帰ってきた。浦内川に出ると、海から逆流してくる波もあるし、遊覧船も通るし、風もあるしで、初心者にはちとキツい。なかなか進まなかった。

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浦内橋より浦内川上流を臨む。

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最近の流行りは、SUP(スタンドアップパドルボード)のようである。上の写真に写っているこのグループもウタラ川を軽めに遡行して楽しんでいた。

ちなみに浦内橋の袂から軍艦岩まで遊覧船が出ている。カンピレーの滝まで行きたかったら、この遊覧船に乗るのがフツーである。今回は時間がなかったのであきらめたが、次回はカンピレーの滝までのトレッキングをぜひやってみたい。

また、カンピレーの滝からさらに奥に入り、島の反対側に抜ける道もあるようである。このルートは、歩行距離が20km弱になるスーパー健脚ルートのようである。ただし、要入山届け、単独行禁止。

cf. 西表島横断(ジャングルの中を25km) - 2012年03月11日 [登山・山行記録] - ヤマレコ

8年くらい前に大阪府のチャレンジ登山(36km)を完歩したことはあるので、ちゃんとトレーニングをしておけば、行けるような気がする。けど、もうアラフォーなので、自分の体力への過信は禁物かな?

 

「ネコ注意」

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ベタに由布島にも渡ってみた。

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由布島に到着するとあれよあれよという間に首に花飾りをかけられ、あんずちゃんの前で記念写真を撮らされたが、その写真が欲しければ有料で購入してくださいということだし、自分たちのカメラで記念写真を撮ることはできない。ちょっと一昔前の商売のやり方だなと思った。植物園を開園した経緯を調べると、ストーリー的にはかなり共感できるんだけどなぁ…*4

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園内のお土産物屋や食堂からもマスツーリズム時代の匂いがぷんぷんしたけれども、由布島茶屋だけは今時な感じがした。ここで小浜島を眺めながら30分くらいはのんびりしていた。風も抜けて気持ち良かった。

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帰り際に水牛たちの休憩所を覗く。寝ている水牛に萌える。

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おっちゃんの弾き語る「十九の春」もこれはこれでなかなか…

てっきり相当のベテランかと思ったけれども、この仕事に就いてからまだ数年らしい。仕事をリタイアされてから始めたということなのかな?

それはそうと、てっきり由布島に渡りたかったら水牛車以外の選択肢はないものだとばかり思っていたが、浅瀬なので徒歩で渡るという手もあるらしい。徒歩で渡るのもおもしろそうである。

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(後半につづく)

*1:日本全国の島嶼部で島おこしに取り組んでいる人々が一同に介し、島の魅力をプロモーションするイベント。cf. 全国の島々が集まる祭典 アイランダー2018

*2:cf. 竹富町役場 - Wikipedia

*3:cf. 「宿借り行政」に終止符か | 八重山毎日新聞社

*4:cf. 由布島 | 亜熱帯植物楽園 | 会社概要