台湾・桃園、永和市場周辺にて

2月27日から4泊5日間の日程で、学生を連れて台湾を訪問してきた。実は、ここ数年、この時期の台湾行きが恒例行事になっている。いつ訪れても衝撃を受けるのは、台湾の個人商店のパワフルさである。定宿にしているホテルの近くに、永和市場という市場があり、その周辺にも商店が拡がっているのである。

 

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とくに印象的なのが精肉の売り方である。冷蔵ショーケースがあるわけでも、パックされているでもなく、肉の塊が直接外気にさらされる形で陳列されている。フツーの日本人がこれを見ると、「衛生的に大丈夫なのか?」と思ってしまうだろう。しかし、台湾ではいたるところでこの売り方を見かける。問題のある売り方であればとっくに駆逐されているはずだから、この売り方でも大きな問題は生じていないのだろう、と勝手に推測するところである。

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もう1つ、この売り方のメリットは、売り手と買い手のコミュニケーションだろう。台湾語がわからないので確たることは言えないが、聞き耳をたてていると、明らかに取引とは無関係のことをおしゃべりしているようである。

自分たちは何を食べているのか? どの部位を食べているのか? この売り方なら、そうしたことへのイメージもごくごく自然な形で沸いてくるだろう。捌いている途中の豚足なんて、なかなか見る機会がない。いわんや豚足の毛を抜く作業をや。

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素食(野菜料理)のお店で朝ごはんを食べることにした。言葉が通じないので確たることは言えないが、どうやらベトナム系のお店のようだった。そこそこ人気のお店のようで、ひっきりなしにお客さんが入ってくる。みんな、思い思いの食材を紙の器にとり、測りで測って、重さに応じた金額を払っていた。

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われわれは店内で食べて帰ることにした。同僚はお粥のうえに思い思いのおかずを載せた。僕はご飯の上にあんかけをかけたものをいただいた。

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永和市場の中にも入ってみた。この建屋は2階より上は使われていないように見える(廃墟なのか?立駐なのか?)。近々、MRTを整備し、ここに駅をつくる予定があるとのことだが、その関連上、上階層の住人やテナントは既に立ち退いているということだろうか?

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市場の売場は地下1階にあるので、エスカレーターに載って潜ってみる。エスカレーターを下りながら目に入ってきたのは、かしわ屋の若い従業員たちがおしゃべりしながら肉をたたき切っている光景…。すばらしい!
それと、地下空間にまでバイクが入ってきているのにも驚いた。一般消費者なのか商店主なのかはわからないが、台湾では、買い付けの足として車よりもバイクの方が有用なようである。

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市場の前の道。とにかくバイクが多い。市場ないし周辺の商店に買い付けにきているバイクが多そうである。渡るだけで一苦労である。

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どこの部位だろう? 台湾語がもっとうまければ、店の人に聞いてみるのだけれど…

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道にせり出した陳列台に、ニワトリが丸々陳列されているのには驚いた。とはいえ、買付けに来る人の視点に立つと、バイクで横付けしやすいところの方が買い物しやすいのである。

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こちらは素食の材料を販売するお店。こういう店が町中いたるところにある。台湾の野菜食文化は、日本の数倍進んでいるように思う。
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地べたに商品を陳列している人たちは、お互いにおしゃべりしていて楽しげ。どこかに場所代などを払っているのだろうか? 語学力があれば聞いてみるのだが…

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以前食べたもち米のおにぎりの味が忘れられず、市場の周辺地区を探し歩くこと10分。ようやく見つけた。

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おばちゃんの作業の手際がこれまたいい! 調子に乗って動画も撮影させていただいた。終盤、油條とよばれる揚げパンのようなものを載せている。これがまた適度にカリカリしつつ、ご飯の水分を吸って適度にシンナリしていて、おいしいのである。

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おにぎりの店の隣りには、ねぎ焼き(?)の屋台があってこちらもおいしそう。

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ところで、台湾的な精肉の売り方*1は、なぜ、日本ではポピュラーではなくなってしまったのだろうか?

おそらくは、食肉販売業許可だとか、食品衛生法だとかいった、法制度の影響があるだろう。

とはいえ、それだけではなく、日本においてパック詰めの販売方法が、小売業者・消費者の双方から大きな支持を集め、普遍化していったことも無視できない。

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関連する議論としては、流通論の教科書的なところでいうと、まず「関スパ方式(関西スーパー方式)」が思い浮かぶ。「関スパ方式」の画期性の一端は、専門技術をもった「職人」に頼らずとも、従業員やパートが刺身やスライス肉をつくることができるよう、職人の作業工程を分解・標準化し、マニュアル化を徹底したことであろう*2。客から必要量をオーダーされてから肉を切るのではなく、あらかじめ切り身ないしスライスにしたものをパックしておく、という販売方法も、上記の議論の延長線上に位置づけることができる。

サミットの敏腕経営者であった安土敏(荒井伸也)さんも、この「関スパ方式」に大きな影響を受けつつ、『日本スーパーマーケット原論』*3を著した。そこでもやはり、生鮮食品を、「職人」に頼らずに、安定的に提供するためにはどうしたらよいか、という問題意識が前面に押し出されている。ついでにいえば、この考え方は、安土さんがアドバイザーとしてかかわった映画『スーパーの女』(監督:伊丹十三;1996年)でも、とりわけ物語後半の重要なモチーフとなっている。ご興味のある方は併せてご参照いただきたい。

ともあれ、パック詰めの販売方法は、さほどの専門技術をもたないスタッフであっても、生鮮食品を提供するためにはどうしたらよいか、という問題意識の中から生れてきた。ボリュームゾーンの商品(大衆魚の切り身やコマ肉)を、安定的かつ安価に提供するために、「職人」に頼らない販売方法(ないし販売システム)が求められたのである。

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とはいえ、安価かつ安定的供給のために「職人」の専門技術・知識を排除するようなやり方は、モノが絶対的に不足していて、なおかつ、国民の所得水準もまだまだ低かった時代(戦後からせいぜい高度成長期くらいまでだろうか…)の価値観を引きずっているようにも思う。成熟社会を迎えた今、改めて「職人」的知識・スキルの重要性を再評価する価値観も、一定程度拡がってきているのではなかろうか。

また、パックされた肉や魚が、消費者たちの「退化」を招いている、と考えることもできる。なるほどたしかに、パックされた商品のラベルには、部位、産地、賞味期限に関する情報が掲載されている。けれども、われわれ消費者は、そうしたシステムのつくりだす、一見強固でありながら実際には脆弱な信頼に甘え、自ら品質を見極める能力を退化させてきたのではないか。

台湾的な売り方ならば、買い手は肉の塊と直接向き合うことができる。どこの部位を何g買うべきか、買い手が自分で考えることができる。場合によっては、調理方法や加工方法について売り手に教えてもらうこともできる。さらにいえば、消費者は日々の買い物を通して目利き力を鍛えていくことができそうである。ぜひ22世紀まで残していただきたい販売方法だと思った。

*1:といっても、台湾においても、この売り方はもはや主流派ではなく、パックされた肉をスーパーで購入する消費者の方が多数派になっているかもしれないが…

*2:もちろんマニュアル化だけが「関スパ方式」の全貌というわけではなく、セルフ販売のための買い物カゴや、生鮮食品を運搬するためのカート、バックヤードの冷蔵設備、売場の冷蔵ケース、パッケージ用フィルムの開発など、他にも重要な要素がある。この点について詳しく、かつ手頃な教科書としては、崔相鐵・岸本哲也編著『1からの流通システム』第6章(中央経済社、2018年)がおすすめである。https://www.amazon.co.jp/dp/4502261912

*3:https://www.amazon.co.jp/dp/4827601259