大島石をはつる

伝統工法にこだわった家づくりを実践しておられる建築士の橋詰飛香(野の草設計室)さんから、「大島石をはつりませんか?」とのお誘いをいただいた。なんでも、これからつくる家の土台になる石を、有志メンバーではつる(削って形を整える)らしい。なかなかない機会なので、学生を連れて参加させてもらうことにした。4月21日(日)の話。

結/Yui 大島石体験&『石はつり隊』結い作業のご案内

今回のイベントは、橋詰さんの野の草設計室が、NPO法人能島の里の協力も得ながら開催した形になるようである。能島の里は、普段から「石文化体験メニュー」の企画・運営に携わっており、採石場で体験メニューを安全に実施するための、十分なノウハウを持っている。

また、イベントの趣旨を理解するためには、橋詰さんの普段の活動についてもある程度理解しておく必要があるかもしれない。既にふれたように、橋詰さんは伝統工法にこだわった家づくりを実践しておられる。「伝統工法にこだわる」ということはどういうことか? 木造にこだわり、新建材を使わずに、古き良き日本の家づくりを実践するということである。すると、まるで建物自体が呼吸をしているかのような素敵な家ができあがる一方、新建材でサクっと建てた家を購入する場合よりも、お金は必要になってしまう。結果として、日本の伝統的家屋の良さは認めつつも、金銭的な制約によって、現実的には新建材の家を選ばざるをえない人が多くなってしまうわけである。

そこで、近年、橋詰さんは、有志によるワークショップ形式の共同作業を取り入れて、家の建築資金を一定程度抑える方法を模索している。もちろん、プロに任せなくてはならないところはプロに任せる。けれども、やりよう次第では、素人さんに作業させても、それなりに何とかなる箇所もあるらしい。僕自身も、以前、竹小舞を編む作業や、土壁を塗る作業に参加させてもらったことがある。そして、こうした共同作業のことを、橋詰さんは、現代版の「結(ゆい)」として位置づけようとしているわけである*1。そういうわけで、今回のイベントには、橋詰さんが建てようとしている家の施主さんも参加されていて、昼食のカレーをふるまってくださった。

当日は、今治市営球場の駐車場に9:30に集合したあと、参加者同士、可能な限り同乗することで、来島海峡大橋(有料)を渡る車の台数を減らす作戦で、宮窪地区のカレイ山展望台の駐車場まで移動した。 展望台駐車場から、徒歩で数分程下ったところに、はつり体験の会場である水の谷石材さんの石切場があった。ちなみに水の谷石材さんは、普段から、「石文化体験ツアー」の石割体験会場を提供しているそうである。

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作業の進め方や、注意点についての説明を受ける。

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今回、はつる石は、家の柱を支える土台として使うらしい。この石の上に柱がのるということである。石の表面がツルツルしていると、ちょっとしたことで柱がずれてしまう可能性もある。だから、石の表面をザラザラにしたい。100%正確に理解できた自信がないけれども、今回のはつり作業の意味はそんな感じだと思われる。

数分ほどはつった石材。こんなもんではまだまだはつりが足りない。

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上背がないとはつり用のハンマーにうまく体重がのらない。ゼミ生のKさんは慣れるまで一苦労していた。ハンマーが怖くて腰が引けている点も、いまいち体重が乗りきらない要因といえる。体重が乗りきらず、力が入らないので、ハンマーが暴れ回ってしまうのである。

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参加者がはつり作業を進めている間に、石切場の片隅から煙が上がり始めた。気になったので見に行ってみると、即席のかまどの上にセットした羽釜でお米を炊いているようだった。

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石切場の隅には、使い道のない端財の石が積まれていた。これらの使い道を考えることにも意義がある。大学に期待されているのはこういう分野での貢献だろう(あるいは高校の地域研究にも適合的といえるかもしれない)。

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そうこうしている間に、はつり作業完了。この石に関しては、当ゼミ生だけで最初から最後まではつりきったことになる。もっとも、石はまだまだあるのだけれども…

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お昼になったので、みんなで、施主さんが腕によりをかけてつくったカレーをいただいた。

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正確な文言は忘れたが、水の谷石材の村上社長が「こんなことになる(ここでみんなでお昼を食べることになる)とは思っていなかった…」とおっしゃっていた(もちろん否定的なニュアンスは感じられない言い方だった)。おそらく、石文化体験ツアー的文脈では、採石場でそのまま食事会を開催することなど思いもよらないことだった、ということなのだろう。とはいえ、橋詰さんのやり方的には、共同作業に参加した全員で一緒にご飯を食べるというプロセスは、はずせない要素の1つである。現代版の「結い」として位置づけるならばなおさらのこと。どうやら、今回の参加者たちは、水の谷石材、能島の里、野の草設計室それぞれのノウハウや発想が融合し、新しいものが生み出された瞬間に立ち会うことができたようである。 

昼食後に、石切現場の見学ツアーが企画された。

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どうやってこんな断崖絶壁が出来たのか? 数十年かけて上から掘り下げてきたらしい。岩肌にはきっと、職人さんたちの汗と労苦が染み込んでいるに違いない。そして時には血が染み込んだこともあるのだろう…。「まるでグランドキャニオンだ!」と感嘆することも大事だが、その背後にある労働の尊さにも意識を向ける必要がある。

はつり作業の動画。終盤になるにつれて、作業の習熟度が徐々に上がっている。動画を見返すとそれがよくわかった。

 

youtu.be 

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作業終了後、橋詰さんお手製の蒸しパンのほか、参加者のもちよったお菓子もシェアして、おやつタイム兼反省会。他の参加者さんの話を聞いていると、子育て世代あり、移住してきたテレワーカーあり、大工さんあり、そしてわれわれのような大学関係者ありで、橋詰さんの企画するワークショップは、多様な属性の人々が集う場としても機能し始めているのだな、と改めて感じた次第である。

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ちなみに、昨年の4月に、橋詰さんが担当している別の家の、竹小舞編みと土壁塗りに参加させていただいたことがある。その時に、床下を覗かせていただいた。参考までにその時の写真もアップしておく。今回はつった石も、おそらくはこのような使われ方をするのではなかろうか。

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*1:橋詰さんの野の草設計室について詳しく知りたい方はウェブサイトをご参照ください。http://nonokusa.com/