DIY賃貸のこと

三津ツアー(https://nyamaguchi.hatenablog.jp/entry/2018/10/29/182042)を実施した26日の夕方には、地元松山の不動産仲介業者である日本エイジェントさんの主催するイベントが開催されることになっていて、僕も参加することにしていた。

まち・へや・くらしの勉強会 produced by繁盛店物語

イベント企画者の牧さんに問い合わせてみると、当日の日中は、ゲスト登壇者の吉原さんと西野さんをお連れして、松山市内のおもしろいところを何か所か回っているとのこと。「いっそのこと三津ツアーもご一緒にどうですか?」とお誘いすると「ぜひぜひ」という流れに。

そういうわけで、26日の三津ツアーは、日米人材交流事業の面々に加えて、エリアマネジメントやDIY賃貸の専門家も加わる、贅沢なグループになった。

日米人材交流事業の一行を三津で見送ったあと、僕は牧、吉原、西野の三方に合流させてもらって、ミネオ君の手がけるDIY賃貸物件を見学に行くなどした。仲間内で「ミネオコーポ」と呼ばれつつあるこの物件では、内装のDIY(セルフビルド)が認められている。いつしかミネオ君のクリエイティヴ肌の友人が集まり始め、今では全住民の6割にのぼるという。
噂には聞いていたが、現物を見るのは初めてだった。想像していた以上にしっかりとDIYされていて、間違いなく松山の最先端事例だと思った。

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夕方17:00からは、サイボウズ松山オフィスにて、吉原さんと西野さんの講演会。吉原さんの講演は、写真あり、データありで非常にわかりやすかった。そのあとに、西野さんによるアカデミックな立場からの解説が続いて、理解を深めやすい構成になったと思う。

DIY賃貸とは、入居者による内装のDIYを認める賃貸のことである。DIYのための資材代は、基本的には入居者側負担になることが多い(貸し手側が一部を負担することもあるようである)。貸し手側のメリットは、通常の賃貸であれば原状回復のために多大なコストが必要になるところ、それが必要なくなる点である。入居者の側のメリットは、部屋の内装を自分の好きなようにカスタマイズすることができる点である。たとえ、資材代が自分持ちになるとしても、自分らしい部屋に住みたいと願う入居者は、増えている。

DIY賃貸には、そもそも原状回復という概念がない。前の入居者がカスタマイズした部屋は、そのまま「素敵な内装の賃貸物件」として、次の入居者に貸し出される。また、次の入居者も、そうした物件の内装に自分なりのカスタマイズを加えてよい。このプロセスの積み重ねによって、物件の価値はむしろ上がる。家賃を上げることもできるようになっていく。こうして、あたかもビンテージワインの価値が年々上がっていくのと同じように、賃貸マンションの資産価値も年々上がっていくのである。吉原さんが提唱しているのは、こういうビジネスモデルである。
この松山でも、大手業者のつくったどこにでもあるマンションや住宅がまだなお増え続けている。放っておくと全国どこにでもあるまちになってしまうのではないかと懸念するところである。吉原さんのやり方は、古い物件をできる限り後世に残していくためのヒントとして理解することができる。

もう1つ書き留めておきたいことがある。ミネオコーポを内覧した際に、吉原さんが「貸し手と入居者が物件の価値を共につくりあげるところに、DIY賃貸の意義がある」という意味のことをおっしゃった。流通・マーケティング研究の領域で昨今流行っている「価値共創パラダイム」と適合的な議論である。経営学マーケティングの理論を何にでもあてはめようとする人のことはあまり好きではないが、この議論だけは本当に適合的だと思った。

日中の三津ツアーも含めて、刺激的な1日だった。