大島石をはつる

伝統工法にこだわった家づくりを実践しておられる建築士の橋詰飛香(野の草設計室)さんから、「大島石をはつりませんか?」とのお誘いをいただいた。なんでも、これからつくる家の土台になる石を、有志メンバーではつる(削って形を整える)らしい。なかなかない機会なので、学生を連れて参加させてもらうことにした。4月21日(日)の話。

結/Yui 大島石体験&『石はつり隊』結い作業のご案内

今回のイベントは、橋詰さんの野の草設計室が、NPO法人能島の里の協力も得ながら開催した形になるようである。能島の里は、普段から「石文化体験メニュー」の企画・運営に携わっており、採石場で体験メニューを安全に実施するための、十分なノウハウを持っている。

また、イベントの趣旨を理解するためには、橋詰さんの普段の活動についてもある程度理解しておく必要があるかもしれない。既にふれたように、橋詰さんは伝統工法にこだわった家づくりを実践しておられる。「伝統工法にこだわる」ということはどういうことか? 木造にこだわり、新建材を使わずに、古き良き日本の家づくりを実践するということである。すると、まるで建物自体が呼吸をしているかのような素敵な家ができあがる一方、新建材でサクっと建てた家を購入する場合よりも、お金は必要になってしまう。結果として、日本の伝統的家屋の良さは認めつつも、金銭的な制約によって、現実的には新建材の家を選ばざるをえない人が多くなってしまうわけである。

そこで、近年、橋詰さんは、有志によるワークショップ形式の共同作業を取り入れて、家の建築資金を一定程度抑える方法を模索している。もちろん、プロに任せなくてはならないところはプロに任せる。けれども、やりよう次第では、素人さんに作業させても、それなりに何とかなる箇所もあるらしい。僕自身も、以前、竹小舞を編む作業や、土壁を塗る作業に参加させてもらったことがある。そして、こうした共同作業のことを、橋詰さんは、現代版の「結(ゆい)」として位置づけようとしているわけである*1。そういうわけで、今回のイベントには、橋詰さんが建てようとしている家の施主さんも参加されていて、昼食のカレーをふるまってくださった。

当日は、今治市営球場の駐車場に9:30に集合したあと、参加者同士、可能な限り同乗することで、来島海峡大橋(有料)を渡る車の台数を減らす作戦で、宮窪地区のカレイ山展望台の駐車場まで移動した。 展望台駐車場から、徒歩で数分程下ったところに、はつり体験の会場である水の谷石材さんの石切場があった。ちなみに水の谷石材さんは、普段から、「石文化体験ツアー」の石割体験会場を提供しているそうである。

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作業の進め方や、注意点についての説明を受ける。

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今回、はつる石は、家の柱を支える土台として使うらしい。この石の上に柱がのるということである。石の表面がツルツルしていると、ちょっとしたことで柱がずれてしまう可能性もある。だから、石の表面をザラザラにしたい。100%正確に理解できた自信がないけれども、今回のはつり作業の意味はそんな感じだと思われる。

数分ほどはつった石材。こんなもんではまだまだはつりが足りない。

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上背がないとはつり用のハンマーにうまく体重がのらない。ゼミ生のKさんは慣れるまで一苦労していた。ハンマーが怖くて腰が引けている点も、いまいち体重が乗りきらない要因といえる。体重が乗りきらず、力が入らないので、ハンマーが暴れ回ってしまうのである。

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参加者がはつり作業を進めている間に、石切場の片隅から煙が上がり始めた。気になったので見に行ってみると、即席のかまどの上にセットした羽釜でお米を炊いているようだった。

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石切場の隅には、使い道のない端財の石が積まれていた。これらの使い道を考えることにも意義がある。大学に期待されているのはこういう分野での貢献だろう(あるいは高校の地域研究にも適合的といえるかもしれない)。

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そうこうしている間に、はつり作業完了。この石に関しては、当ゼミ生だけで最初から最後まではつりきったことになる。もっとも、石はまだまだあるのだけれども…

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お昼になったので、みんなで、施主さんが腕によりをかけてつくったカレーをいただいた。

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正確な文言は忘れたが、水の谷石材の村上社長が「こんなことになる(ここでみんなでお昼を食べることになる)とは思っていなかった…」とおっしゃっていた(もちろん否定的なニュアンスは感じられない言い方だった)。おそらく、石文化体験ツアー的文脈では、採石場でそのまま食事会を開催することなど思いもよらないことだった、ということなのだろう。とはいえ、橋詰さんのやり方的には、共同作業に参加した全員で一緒にご飯を食べるというプロセスは、はずせない要素の1つである。現代版の「結い」として位置づけるならばなおさらのこと。どうやら、今回の参加者たちは、水の谷石材、能島の里、野の草設計室それぞれのノウハウや発想が融合し、新しいものが生み出された瞬間に立ち会うことができたようである。 

昼食後に、石切現場の見学ツアーが企画された。

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どうやってこんな断崖絶壁が出来たのか? 数十年かけて上から掘り下げてきたらしい。岩肌にはきっと、職人さんたちの汗と労苦が染み込んでいるに違いない。そして時には血が染み込んだこともあるのだろう…。「まるでグランドキャニオンだ!」と感嘆することも大事だが、その背後にある労働の尊さにも意識を向ける必要がある。

はつり作業の動画。終盤になるにつれて、作業の習熟度が徐々に上がっている。動画を見返すとそれがよくわかった。

 

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作業終了後、橋詰さんお手製の蒸しパンのほか、参加者のもちよったお菓子もシェアして、おやつタイム兼反省会。他の参加者さんの話を聞いていると、子育て世代あり、移住してきたテレワーカーあり、大工さんあり、そしてわれわれのような大学関係者ありで、橋詰さんの企画するワークショップは、多様な属性の人々が集う場としても機能し始めているのだな、と改めて感じた次第である。

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ちなみに、昨年の4月に、橋詰さんが担当している別の家の、竹小舞編みと土壁塗りに参加させていただいたことがある。その時に、床下を覗かせていただいた。参考までにその時の写真もアップしておく。今回はつった石も、おそらくはこのような使われ方をするのではなかろうか。

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*1:橋詰さんの野の草設計室について詳しく知りたい方はウェブサイトをご参照ください。http://nonokusa.com/

由良野の森へ

4月14日(日)に学生を連れて「由良野の森」にお邪魔してきた。羊の毛刈りイベントである。当然ながら、僕も学生も、羊の毛刈りを間近で見たり、実際に刈らせてもらったりするのは初めてだった。

10:00頃、由良野の森に到着すると、ほどなく羊さん登場。若干、いやがっている…

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羊は、倒されるのをいやがる。けれども、一端倒されてしまうと、観念したようになるところがまたかわいい。

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バリカンを使うところもあるようだが、由良野の森では裁ちバサミで丁寧に切っていた。

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最後は、毛の抜け殻ができあがった。

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羊小屋に遊びに行ってみると、午後の部で毛を刈られることになる羊さんが、小屋のすみっちょでうずくまっていた。

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小屋の外には、前日に毛を刈られてしまったお母さん羊と子羊。

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製品化の例として見せてもらったスリッパ。天然ウールは摩擦にも強いので、長く使えるらしい。

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由良野の森では、羊のほかに、ヤギ、ニワトリも飼っている。

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ニワトリとたわむれていたら、いつのまにか午後の部が始まっていた。やはり、先ほど小屋の片隅にうずくまっていた羊が、倒されて、神妙な面持ちになっていた。

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由良野の森では、自然の中での体験教室や、森を復元するプロジェクトなど、様々な活動を展開している。内容があまりに多彩すぎるので、このエントリーで説明しつくさない方がいいように思う。そういうわけで、ご興味のある方は、由良野の森のウェブサイトをご高覧いただきたい。

yuranonomori.jp


追記(2019/04/24)

毛刈りの際の動画を編集した。ご興味のある方はご高覧いただきたい。

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ストリップ劇場物語

「ストリップ劇場物語」というテレビのドキュメンタリー(を録画したもの)を視聴した。テレビマンユニオン制作による50分強のドキュメンタリー作品で、元々は、2018年6月1日にBSフジで放映されたものらしい。

序盤こそ、筧利夫さん、広末涼子さん、杉田成道さんが、実際にストリップショーを観覧し、感想を述べ、そのまま踊り子にインタビューするシーンがあるものの、それ以降、この3人はまったく登場しなくなる。筧さんや広末さん目当てでこの作品を視聴すると、おそらくガッカリすることになるので、ファンの方はご注意されたい。

このドキュメンタリーの主人公は浅草ロック座の南まゆさんと武藤つぐみさん。新しい公演を準備段階から公開まで追いかける形式のドキュメンタリーである。
直接的にそういうナレーションが入っていたわけではないが、この番組が視聴者に伝えようとしているメッセ―ジは、おそらく以下のようなものであろう。

 

  • ストリップは「単なるやらしい見世物」ではなく、研鑽を重ねたプロの踊り子たちによる立派なショービジネスである。


アザだらけになりながらポールダンスの練習をする武藤つぐみさんの映像が印象的だった。
近年、ストリップへの社会的イメージが変わりつつあることも、番組のトーンに影響を与えている。気軽に観覧する女性客も増えているようである。番組の中でも、武藤さんについている女性ファンの多さへの言及があった。

番組内では、ストリップ劇場の新しい試みとして、ニュー道後ミュージックの取り組みも紹介されていた。というのも、ニュー道後ミュージックでは、地元松山のアーティストとのコラボレーションイベントの機会を増やしているのである。踊り子として登場していたのはゆきみ愛さん、地元アーティストとして登場していたのは blue lagoon stompers の面々と仙九郎さんだった。

 

追記(2020/04/03)

上記の「ニュー道後ミュージックでは、地元松山のアーティストとのコラボレーションイベントの機会を増やしている」と関連して、以下のような論文を書かせていただく機会に恵まれた。

https://opac1.lib.ehime-u.ac.jp/iyokan/TD30295547

  • ニュー道後ミュージック社長の木村さん
  • コラボストリップのアイデアを木村さんに提案し、自ら実践した、踊り子の牧瀬茜さん
  • 地元アーティストとして踊り子とコラボレーションするのみならず、踊り子と他の地元アーティストとの間の窓口的役割も果たしているblue lagoon stompersの白石さんと吉井さん

たちへのヒアリング調査をもとに、コラボストリップ成立の経緯や定着要因について、不十分ながらも検討を試みている。ご興味のある方はご高覧いただきたい。

また、この論文を脱稿してから、ストリップ劇場のあり方について法学的切り口からアプローチするブログの存在を知った。

stg318.hatenablog.com

このブログにもっと早く出会っていれば、ストリップ劇場を取り巻く法制度についてももっと勉強してから論文を書くことができた。自らのアンテナ感度の悪さを悔いるところである。

今治へ

昨日のこと、今治ホホホ座で開催された「3.11以降の私(たち)」というイベントにお邪魔してきた。

キャンプシアター presents 『3.11以降の私(たち)』

このイベント、入場料は野菜でOKとのこと。参加者の持ち寄った野菜を炊き出しにしてみんなで食べるらしい。よく思いつくなぁ、こんな仕組み。

ホホホ座に着くと、さほど広くはないホホホ座の屋内空間の中に、おそらくはsnowpeak製であろう…、お洒落なドーム型テントが鎮座していてビックリした。

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野菜もしっかりと集まっていた。ちなみに僕(と妻)が持ち寄ったのは、玉川の産直で購入した春菊と原木シイタケ。

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ホホホ座のコアメンバーの方々が、一生懸命炊き出しを調理してくれていた。その間に参加者たちは、劇団250km圏内の演劇を観覧(?)し、そのあと、3グループくらいに別れて、震災後の生活や原発のことについて語り合った。

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ちょうどいい具合にお腹が空いたところで、いよいよお待ちかねの炊き出しタイム。

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とはいえ、炊き出しを食べながらも、青砥さんの解説が続く。青砥さんは復興過程の東北で見てきたものをスライドにして解説してくれた。
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昨年7月の集中豪雨の時に、ここ今治ホホホ座も支援物資の集積場所になった。そういう経緯があって、今回のイベントでは、大州の方々からのお礼のイチゴがふるまわれた。

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ところで、ここのところの今治はおもしろい。そしておもしろいことの多くに今治ホホホ座がかんできている*1

先月お邪魔させてもらった「タケオとヤミーの『今治で逢いましょう』」もおもしろかった。このイベントも主催は今治ホホホ座の面々である。

タケオとヤミーの「今治で逢いましょう」

イベント内容は、トウヤマタケオさんのピアノ演奏に合わせて、yummydanceの宇都宮忍さんと合田緑さんがコンテンポラリーダンスを披露する、というものである。とはいえ、とくにコンテンポラリーダンスについてはドシロートなので、詳しい感想は胸の内に留めさせてもらうことにして、むしろこのイベントの会場になった場所のことを書き留めておきたい。

会場となったのはビサージュ(VISAGE)という、閉業した商業施設跡地である。そこそこ大きい商業施設(ファッションビル)で、バブルの頃、外部資本の出店に対抗すべく、地元の人たちがお金を出し合ってつくった商業施設らしい。とはいえ、中心市街地の地盤沈下と歩調を合わせるように業績を悪化させ、閉業。その後、遊休施設となってからは長らく眠っていた物件である。

「せめてイベントの時だけでも…」ということで、場所を開けてもらったのだろう。中心市街地にとって、そのことの持つ意義はものすごく大きいはずである。ホホホ座の吾一さんにお聞きしたところ、この日は、商店街内で「空想商店街」というイベントも開催されており、そのイベントの企画者である地域おこし協力隊員のOさんが、ビサージュの持ち主に交渉を試み、話をまとめてくれたらしい。

ずっと中が気になっていた施設なので、イベントの休憩時間に、何枚か写真を撮らせてもらった。吾一さんたちは、上階層も見てきたらしい。うらやましい… f:id:nyamaguchi:20190322204517j:plain

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松山市桜・中組地区の断崖

昨日は久万高原町に用事があった。松山市から久万高原町への往復のために通常使うルートは国道33号である。この日は、往路については国道33号を使ったが、復路についてはややマニアックな道で帰ることにした。復路の途中までは33号を使ったものの、三坂道路には入らないことにし、旧道(格下げされて国道440号になっている)を使って三坂峠を越え、そのまま道なりに行けばやがて再び国道33号と合流するところを大久保地区で右折し、奥久谷地区に下る道である。というか、この道はけっこう気に入っていて、ちょくちょく使っている。奥久谷地区では、祖谷の「かかしの里」には到底及ばないまでも、至るところにかかしが鎮座していて、まあまあおもしろい。

とはいえ、いつもは日没するかしないかの時間帯に通りかかることが多かった。だから景色を楽しむことはできていなかったのだけれども、今回は日中に帰松したので、普段見えないいろいろなものが目に入った。

今回印象に残ったのは、松山市桜地区の集落の背後(北東側)に断崖絶壁があるということ。国土地理院地図で確認してみると、どうやら標高587mの水準点から北西に伸びているテラスのようなところのフチが断崖になっているようである(下に示した地図の赤丸で囲った箇所)。

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それにしても、まんが日本昔ばなしの「吉作落とし」を彷彿とさせる、なかなかの断崖である。何か名前でもついているのであろうか?

奥久谷地区まで下りてからでも、断崖はよく見えていた。が、桜地区や中組地区からどのように見えるかはわからない。何かわかったらまたエントリーにしてみたい。

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追記(2020/04/28)

たまたま近くを通る機会に恵まれたので、断崖の空撮を試みてみた。といってもいまひとつ回り込みきらず、上記の写真に映っている赤茶じみた岩肌をしっかり撮影することはできていないけれども…

 

www.youtube.com

台北:西門から迪化街へ

3月1日、一説には台北(いや…、台湾で)でいま一番勢いがあるという西門の商店街を視察した。これがまた若者の聖地的な街で、とにかく若者…若者…若者だらけ。東京でいえば原宿あたりに相当するだろうか。

対応してくださった商店街(西門徒歩区街区発展促進会)の劉理事長は、道後温泉を訪問したことがあるらしい。また、松山市野志市長にも何度かお会いしたことがあるらしい。台北市松山市が友好交流協定を結んでいる関係上だろうか…

 

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西門の商業地域の中では、何か所かで、ストリートパフォーマンスの集団に出くわした。市政府に対してか商店街組織に対してかは聞きのがしてしまったが、ここでパフォーマンスするためにはいちおう許可がいるらしい。ロンドンの地下鉄で路上ライヴしている人たちと同じような感じだろうか?f:id:nyamaguchi:20190307004658j:plain

 

ユニクロの建物の家賃は、1ヶ月で1500万元らしい。1台湾元=3.6円のレートで計算してみると5400万円! 1フロアだけでなく多階層の家賃であるとはいえ、とんでもない価格である。

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最も地価が高いのはおそらくこのケンタッキーのある交差点とのこと。また、タイムリーなことに、このケンタッキーのビルが、いま、15億元ほどで売りに出されているそうである。同じく3.6がけしてみると54億円!

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お値段の話。あまりにケタが大きすぎて、聞き間違いではないかと不安になる。間違っていたらごめんなさい。

ところが、いま、勢いにのっているこの西門の街も、15年前は落ち目だったらしい。その時、西門の商店街組織は大家さんたちに「まず家賃を安くしましょう!」とはたらきかけた。そのおかげで今の西門の繁栄があるとのこと。

やはり、多くの衰退商店街で、再生を考えるにあたって、家賃相場を適正水準に下げる努力をおこなっている。この台北…、いや台湾の中で最も栄えているように見える商店街ですらそうなのだ、という話を興味深く聞いた。
その後、劉理事長の案内で、迪化街(てきかがい)という乾物や漢方薬の問屋街を訪問した。しかも、近年、この街にはリノベーションの風が吹いていて、いい感じのカフェや雑貨屋さんが増えているらしい。といっても、淡水河沿いを北上してから街に辿り着いたので、迪化街の北の外れの方しか訪問できていないのだが…

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迪化街のメインストリート(迪化街一段)(南向き撮影)。本当のところをいうとここから南下していったあたりの方が、より強いリノベの風が吹いているようなのだが、今回、そこまで散策できなかったのが残念。

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われわれの歩いた範囲内で見かけたリノベ物件。 古い店舗物件をお寿司屋さんにリノベーションした事例のようである。

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なおこの物件、Google Street View で見てみると、2017年4月の時点で、都市再生前進基地(URS155: Urban Regeneration Station 155)として使われていたことがわかる。

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都市再生前進基地って何だろう? と思って調べてみたら、以下のようなページがそこそこわかりやすかった。

TAIPEI 冬季号 2017 Vol.10 都市再開発クリエイティビティ 台北‧下町の魅力を遊ぶ | 台北観光サイト

勝手なイメージだが、空き店舗にリノベーションを加えつつ、クリエイティヴなスペースとして活用し、文化的な発信拠点ないし集客拠点にしていく取り組みだろうか。別府で見た platform プロジェクトのようなイメージ? また、借り手がつけば、都市再生前進基地としての利用はとりやめて、フツーにテナントとして使ってもらうという感じだろうか?(あくまで勝手な想像です)

上記のお寿司屋さんのはす向かいにある、ペーパークラフト雑貨の店が素晴らしかった(奥にはお洒落なカフェも併設されていた)。今回の台湾行きで訪問した場所の中では、「リノベ」のイメージに最も適合的なお店だったと思う。自分の記憶に留める意図もあって、500元する猫の置き物(もちろんペーパークラフト)を購入した。おそらく、お宿代を除けば、今回の台湾行きで最も高価な買い物だった。

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できることならこの迪化街をもう小一時間ほどゆっくり散策したかった。今度、台北を訪問する時には行先候補地に必ず入れたい、という思いも込めて、書き留めた次第である。

なお、迪化街訪問後は、寧夏夜市で夕食を食べて、タクシーで桃園の宿に戻った*1寧夏夜市との近さも、迪化街の特筆点といえるかもしれない。

*1:ちなみにタクシーで帰ってもわずか800元程だった。4人でワリカンすれば1人あたり200元程度。新幹線で帰るよりよっぽど安い…

台湾・桃園、永和市場周辺にて

2月27日から4泊5日間の日程で、学生を連れて台湾を訪問してきた。実は、ここ数年、この時期の台湾行きが恒例行事になっている。いつ訪れても衝撃を受けるのは、台湾の個人商店のパワフルさである。定宿にしているホテルの近くに、永和市場という市場があり、その周辺にも商店が拡がっているのである。

 

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とくに印象的なのが精肉の売り方である。冷蔵ショーケースがあるわけでも、パックされているでもなく、肉の塊が直接外気にさらされる形で陳列されている。フツーの日本人がこれを見ると、「衛生的に大丈夫なのか?」と思ってしまうだろう。しかし、台湾ではいたるところでこの売り方を見かける。問題のある売り方であればとっくに駆逐されているはずだから、この売り方でも大きな問題は生じていないのだろう、と勝手に推測するところである。

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もう1つ、この売り方のメリットは、売り手と買い手のコミュニケーションだろう。台湾語がわからないので確たることは言えないが、聞き耳をたてていると、明らかに取引とは無関係のことをおしゃべりしているようである。

自分たちは何を食べているのか? どの部位を食べているのか? この売り方なら、そうしたことへのイメージもごくごく自然な形で沸いてくるだろう。捌いている途中の豚足なんて、なかなか見る機会がない。いわんや豚足の毛を抜く作業をや。

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素食(野菜料理)のお店で朝ごはんを食べることにした。言葉が通じないので確たることは言えないが、どうやらベトナム系のお店のようだった。そこそこ人気のお店のようで、ひっきりなしにお客さんが入ってくる。みんな、思い思いの食材を紙の器にとり、測りで測って、重さに応じた金額を払っていた。

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われわれは店内で食べて帰ることにした。同僚はお粥のうえに思い思いのおかずを載せた。僕はご飯の上にあんかけをかけたものをいただいた。

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永和市場の中にも入ってみた。この建屋は2階より上は使われていないように見える(廃墟なのか?立駐なのか?)。近々、MRTを整備し、ここに駅をつくる予定があるとのことだが、その関連上、上階層の住人やテナントは既に立ち退いているということだろうか?

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市場の売場は地下1階にあるので、エスカレーターに載って潜ってみる。エスカレーターを下りながら目に入ってきたのは、かしわ屋の若い従業員たちがおしゃべりしながら肉をたたき切っている光景…。すばらしい!
それと、地下空間にまでバイクが入ってきているのにも驚いた。一般消費者なのか商店主なのかはわからないが、台湾では、買い付けの足として車よりもバイクの方が有用なようである。

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市場の前の道。とにかくバイクが多い。市場ないし周辺の商店に買い付けにきているバイクが多そうである。渡るだけで一苦労である。

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どこの部位だろう? 台湾語がもっとうまければ、店の人に聞いてみるのだけれど…

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道にせり出した陳列台に、ニワトリが丸々陳列されているのには驚いた。とはいえ、買付けに来る人の視点に立つと、バイクで横付けしやすいところの方が買い物しやすいのである。

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こちらは素食の材料を販売するお店。こういう店が町中いたるところにある。台湾の野菜食文化は、日本の数倍進んでいるように思う。
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地べたに商品を陳列している人たちは、お互いにおしゃべりしていて楽しげ。どこかに場所代などを払っているのだろうか? 語学力があれば聞いてみるのだが…

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以前食べたもち米のおにぎりの味が忘れられず、市場の周辺地区を探し歩くこと10分。ようやく見つけた。

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おばちゃんの作業の手際がこれまたいい! 調子に乗って動画も撮影させていただいた。終盤、油條とよばれる揚げパンのようなものを載せている。これがまた適度にカリカリしつつ、ご飯の水分を吸って適度にシンナリしていて、おいしいのである。

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おにぎりの店の隣りには、ねぎ焼き(?)の屋台があってこちらもおいしそう。

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ところで、台湾的な精肉の売り方*1は、なぜ、日本ではポピュラーではなくなってしまったのだろうか?

おそらくは、食肉販売業許可だとか、食品衛生法だとかいった、法制度の影響があるだろう。

とはいえ、それだけではなく、日本においてパック詰めの販売方法が、小売業者・消費者の双方から大きな支持を集め、普遍化していったことも無視できない。

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関連する議論としては、流通論の教科書的なところでいうと、まず「関スパ方式(関西スーパー方式)」が思い浮かぶ。「関スパ方式」の画期性の一端は、専門技術をもった「職人」に頼らずとも、従業員やパートが刺身やスライス肉をつくることができるよう、職人の作業工程を分解・標準化し、マニュアル化を徹底したことであろう*2。客から必要量をオーダーされてから肉を切るのではなく、あらかじめ切り身ないしスライスにしたものをパックしておく、という販売方法も、上記の議論の延長線上に位置づけることができる。

サミットの敏腕経営者であった安土敏(荒井伸也)さんも、この「関スパ方式」に大きな影響を受けつつ、『日本スーパーマーケット原論』*3を著した。そこでもやはり、生鮮食品を、「職人」に頼らずに、安定的に提供するためにはどうしたらよいか、という問題意識が前面に押し出されている。ついでにいえば、この考え方は、安土さんがアドバイザーとしてかかわった映画『スーパーの女』(監督:伊丹十三;1996年)でも、とりわけ物語後半の重要なモチーフとなっている。ご興味のある方は併せてご参照いただきたい。

ともあれ、パック詰めの販売方法は、さほどの専門技術をもたないスタッフであっても、生鮮食品を提供するためにはどうしたらよいか、という問題意識の中から生れてきた。ボリュームゾーンの商品(大衆魚の切り身やコマ肉)を、安定的かつ安価に提供するために、「職人」に頼らない販売方法(ないし販売システム)が求められたのである。

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とはいえ、安価かつ安定的供給のために「職人」の専門技術・知識を排除するようなやり方は、モノが絶対的に不足していて、なおかつ、国民の所得水準もまだまだ低かった時代(戦後からせいぜい高度成長期くらいまでだろうか…)の価値観を引きずっているようにも思う。成熟社会を迎えた今、改めて「職人」的知識・スキルの重要性を再評価する価値観も、一定程度拡がってきているのではなかろうか。

また、パックされた肉や魚が、消費者たちの「退化」を招いている、と考えることもできる。なるほどたしかに、パックされた商品のラベルには、部位、産地、賞味期限に関する情報が掲載されている。けれども、われわれ消費者は、そうしたシステムのつくりだす、一見強固でありながら実際には脆弱な信頼に甘え、自ら品質を見極める能力を退化させてきたのではないか。

台湾的な売り方ならば、買い手は肉の塊と直接向き合うことができる。どこの部位を何g買うべきか、買い手が自分で考えることができる。場合によっては、調理方法や加工方法について売り手に教えてもらうこともできる。さらにいえば、消費者は日々の買い物を通して目利き力を鍛えていくことができそうである。ぜひ22世紀まで残していただきたい販売方法だと思った。

*1:といっても、台湾においても、この売り方はもはや主流派ではなく、パックされた肉をスーパーで購入する消費者の方が多数派になっているかもしれないが…

*2:もちろんマニュアル化だけが「関スパ方式」の全貌というわけではなく、セルフ販売のための買い物カゴや、生鮮食品を運搬するためのカート、バックヤードの冷蔵設備、売場の冷蔵ケース、パッケージ用フィルムの開発など、他にも重要な要素がある。この点について詳しく、かつ手頃な教科書としては、崔相鐵・岸本哲也編著『1からの流通システム』第6章(中央経済社、2018年)がおすすめである。https://www.amazon.co.jp/dp/4502261912

*3:https://www.amazon.co.jp/dp/4827601259